【読書】脳科学は人格を変えられるか?

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脳科学は人格を変えられるか?

内容

まとめ

  • ネガティブな感情(怒り・恐怖)は、人間が本来持つ防衛本能によって「扁桃体」が反応したもの。扁桃体と前頭前野は、アクセルとブレーキのような関係性にある。前頭前野を活性化させて扁桃体を制御することが、逆境に屈しない精神を育む神経的メカニズム。
  • 恐怖は快楽よりもずっと強い力を人間に与える。メディアは不安を煽るニュースを報道することで視聴数を稼ぎ、炎上商法も同じ理論。
  • 認知行動療法<=認知バイアスの修正>によって、レイニーブレインの大元にある回路に働きかけると、思考パターンは脳の可塑性によって変化する。心の目に映る風景、つまり個々の認知バイアスを変化させれば、自分の世界観を変えることができる。毒を抜く訓練をする。
  • マインドフルネスは、扁桃体の密度を物理的に小さくし、抑制中枢のニューロンを増加させる研究結果が出ている。

認知バイアスを書き換える

あなたがものごとをどう見るか、そしてそれにどう反応するかによって、実際に起きることが変化する。「人生の明るい面に目がいくか、暗い面に目が行くか」と言う差は、脳の活動パターン自体に関連しているらしい。

「ものごとには良いも悪いもない。それを決めるのは当人の考えひとつだ」

『ハムレット』第二幕第二場より ウィリアム・シェイクスピア

同じ出来事が起こっても、ポジティブに受け取るか、ネガティブに受け取るか、これは脳の情報処理の仕方が違うから。処理システムを変更できれば、ネガティブな人もある程度はポジティブ思考になれる。

快楽に向かうこと、そして不安を遠ざけること。このふたつの巨大な動機付けこそが、長い進化の過程を通じて人間の脳内にさまざまな回路を発達させ、それらの集積が、恐怖と快楽をそれぞれ司る回路を形成した。

ドーパミンとオピオイド

サニーブレインのなかで最も活発に働いているのはドーパミン、アヘンと似た働きをするオピオイドと言う脳内物質である。側坐核を構成する細胞にはドーパミンとオピオイドのどちらかが含まれている。これらは、サニーブレイン全体のエンジンルームでいわばオイルの役割を果たしており、楽観を作り上げる基本要素の一つである。

砂糖水などのご馳走を与えられたり、性交したりすると、ラットの側坐核内のドーパミンレベルが急上昇する。人間にも同様の現象が起きる。側坐核に埋め込んだ電極を刺激すると、ドーパミンの分泌が増大するのが確認された。

「オピオイドを含むニューロンが活性化すると、甘いものはより甘く感じられる」気持ちよく見せるのがオピオイドの働きに対し、ドーパミンはその経験を「欲して」反復させる作用を持つ。

セックスでもドラッグでもチョコレートでもゲームでも、脳に埋め込んだ電極にスイッチを入れることでも構わない−刺激を受けると、側坐核はドーパミンとオピオイドを分泌する。ニューロンが何度もこの「会話」を繰り返すと、シナプス結合により通り道ができる。サニーブレインのような大きな回路も、このようにして形成される。

側坐核は人間を快楽へと駆り立て、前頭前野はそうした原始的な衝動を制御する。両者はちょうどアクセルとブレーキのように働く。

楽観的なリアリストは、自分の運命は自分でコントロールできると意識の底で信じている。…悲観主義者が持っていない魔法のハッピー・ジュースを楽観主義者が手ににしているからではない…困難に直面しても簡単には諦めず、倍の努力をしてもでも問題を克服する道を見つけ出そうとする。

P82

オプティミズム・バイアス

ドーパミンを含むニューロンの複雑なネットワークがもたらす「欲望」は、快楽という現象の中ではあまり賛美されない側面だが、これがあるおかげで人間は生きていくうえで究極的に善である物事に気づき、それに取り組み続けることができる。

「ポジティブな思考はあらゆる利益をもたらす」と唱える自己啓発書は総じて、何かを「気持ちよく感じる」ことばかりを重視する。楽観主義とは単にハッピーな気持ちでいることでも、「すべては上手くいく」とひたすら信じることでもない。問題は、逆境が訪れたときにどう反応するかだ。盲目的な楽観主義は不要である。

喜びや幸福などポジティブな気分でいるとき、人間の思考の幅は自然に拡大する。そのおかげでより創造的になり、「枠にとらわれずに考える」ことができるようになるのだ。災いに出会っても折れない心と前に進み続ける力は、楽観主義のいわばトレンドマークだ。

ぺスティミズム・バイアス

社会的な生き物である私たち人間には、他社の感情を即座にすくい上げる強烈な力が備わっている。そして、他者の恐怖の表情は、近くに危険が潜むことを知る有力な手がかりになる。そうした潜在的な危険に気づくのを助けるのは、恐怖の回路の奥にあるこの扁桃体の反応であることが、複数の調査から確認された。

扁桃体から大脳皮質の各部に向かう経路が、大脳皮質から扁桃体へ戻る経路よりずっと数が多いことは、恐怖を科学的に解き明かすうえで大きな鍵になる。警報の役割を果たす回路が必要以上に強くなり、抑制の中枢の働きが弱まると、人は総じて悲観的な思考形式へと押しやられ、ものごとを悪い方へ悪い方へと考えるようになる。こうして、ネガティブな思考が徐々に出現し、良い面よりも悪い面に目が逝くようなバイアスが確立されていく。悪いニュースがよく売れるのは当然だ。危険が人の注意を引きつける力は強力で、たやすく克服されるようなものではない。

危機を察知するこれほど強力なシステムがもしもなかったら、人間はもっとずっと早くに命を落としてしまうだろう。だがいっぽうで、このシステムが楽観的思考の妨げになっているのも事実だ。さまざまな恐怖や不安は人間を立ち止まらせ、暗くネガティブな面へと目を向けさせる。簡単に言えば恐怖が、そして恐怖を司る回路こそが、楽観的に生きることの最大の障壁となっているのだ。

セロトニントランスポーター遺伝子

セロトニントランスポーター遺伝子は、セロトニンの分泌量を調整する。その個数は遺伝的に決まっているが、日本人は65%の人がSS型(遺伝子量が少ない型)、32%がSL型、3%がLL型(遺伝子量が多い)世界で最も不安になりやすい民族である。さまざまな説があるが、災害大国であったことが原因と言われている。

セロトニン運搬遺伝子の発現量が高い人は、ポジティブな画像に自然に注意が向かうと同時に、ネガティブな画像を殊更に避けていた。いっぽう、発現量が低い人は、ポジティブな画像を無視してネガティブな画像に注意を集中しがちだった。

プロモーター部分の近くに潜むメチル系化学物質は、遺伝子を効果的に沈黙させ、遺伝子のはたらきを遮断する。遺伝子情報が解読させるかどうかに影響を与えるのは無論、その人を取り巻く環境だ。それまでの人生で起きた出来事やエピジェネティックな変化など、数多くの要因が関わっている。

認知バイアスの修正

過去のトラウマは、防御本能が原因であること。三日前に食べた夕食は忘れているのに、シナプスの結合によって長期記憶は形成される。思い出せば思い出すほどに、より強化されてしまう。鬱病になりやすい人は、前頭葉前皮質と扁桃体との結びつきが弱い。過去の自分を許して、全く必要のない自己否定を一切しない。過去の自分は、現時点の最善を尽くしてきた自分であることを許す。

常に感情が上乗せされている心の情報処理に、客観的数値を判断基準にする。正しい情報を数値として認識し、客観による情報交換によって思考する。自分の思い込みや妄想によってネタティブ思考を引き起こしている。心の在り方を変えることで、世界の見え方を変わってきた。次は思い込みによる間違った世界の見方を変革する。

相手から言葉を真に受けず、全部を正しく議論しない。議論可能な相手とのみ、客観による議論をし、信用できる相手とのみ主観によるコミュニケーションを実施すれば良い。

死生観と実存から、本質評価すること。幸福とは何かを哲学から合理的に考える。過去の怒りに囚われている事のほとんどが大した事じゃない。てめえが過去に囚われている間に、他の人は新しいことにチャレンジしている。そんな時間に余裕はないから、とにかく行動しよう。楽観主義でやるべきことに諦めない思考の体力をつける。データ主義に基づいて期待値の高い手法を何通りも試しながら、失敗は成長に糧には必要だと理解する。

恐怖を無くす方法

  • 心理療法とD-サイクロセリンなどの薬を組み合わせる。
  • 内側前頭前野皮質を活性化させる。ここから伸びる神経は扁桃体に直結している。
  • 心に浮かんだ考えをラベル付けし、大したことないと思う。
  • マインドフルネスを行う。