よくわかるACT
アクセプタンス&コミットメント・セラピー(以下、ACT)は森田療法とマインドフルネスを組み合わせた心理療法と言われる。医師が行う治療としてだけでなく、一般人でもストレス対処の技法として活用できるものである。
これまでに療法と大きく違う点は、不快の感情を受け入れる(Acceptance)を強調している点にある。
ACTとは
ACTの中心にあるのは、「心理的柔軟性」にある。ACTは以下の6つの基本行動原則に基づいて、心理的柔軟性を養う。
- ①脱フュージョン:ただの考え(感情)と自分を一体化せず、客観視する。
- ②拡張:不快な感情を受け入れ、居場所を作る。
- ③接続:今ここ、この瞬間に意識を置く。
- ④観察する自己:気づく自己に意識を向ける。
- ⑤価値:自分の価値を決める。
- ⑥行動:自分の価値に沿った行動をとる。
マインドフルネスを以前に学んでいたおかげで、③以降は過去の復習となった。
脱フュージョン
脱同一化はマインドフルネスでも用いられる方法。思考を、言葉とイメージの組み合わせに過ぎないと認識する。頭に浮かんだ思考を真実だと受け止めてしまうことを「認知的フュージョン」と言い、「ただの考え(感情)」と「自分」が強く結びついている状態を示す。
例えば、目の前に梅干しがあって、口の中に入れるイメージを想像する。脳内で作られた梅干しの「酸っぱい」というイメージによって、勝手に口内で唾液が生成されるはず。人間はイメージによって、現実には生じていない防衛本能を働かせる。この状態を「認知的フュージョン」という。人は脳が作り出した「ただの言葉」を、現実に起こっていることだと錯覚してしまう。
それは、特に対人関係へのストレスにも同様に作用する。人は防衛本能が強い人ほど、自分で勝手に被害妄想の物語を作って、悪い方向にイメージを作ってしまう。他人の目を勝手に想像して、自己批判している。
ただし、外的要因によって頭の中で生まれてくる怒りや不安のイメージは、人間の防衛本能から生じるもので拒否できない。頭を「からっぽ」にするレッスンでも、自分の感情をただ傍観する重要性が説かれていた。
ストレスのイメージを反芻するのは、自分の思考があたかも目の前で起きているかのように、または今後実際に起きるかのように想像してしまっているから。そのイメージは、ただの「思考」に過ぎない、と認識することが重要。またその思考は「拡張」により、絶対に否定しない。
リフレーミング
被害妄想の物語を作り出そうとするとき、以下の言葉に変換する。ネガティブな思考と一体化(フュージョン)した状態から、少し離れるイメージを持つ。この「言い直す」のはリフレーミングと呼ばれ、以前からの認知行動療法の領域で使用されたテクニックでもある。この時に重要なのは、気づくだけで感情を否定しないこと。
認知的フュージョン:私は◯◯だ。
脱フュージョン: 私は◯◯という考え方を持っていることに、気づいた。
拡張
心身の不快を拒絶しようとすればするほど、その反応はより鮮明になり強化され、ますます注意が向いていく。これを「精神交互作用」という。
「苦悩するのは、その苦痛に抵抗するからだと理解すること。これが幸せになる秘訣だ」
(禅の導師 ティク・ナット・ハン)
ネガティブな感情は排除できない。否定も拒絶もせずに存在を許す=アクセプタンス(受容)する。「拡張」とは不快な感情を抑え込もうとすることと逆で、感情の居場所を作ることにある。
自分の思考と感情をあるがままの状態にしておくこと。その思考・感情が喜ばしいものでもつらいものでも、心を開いて、それを受け入れる場所を作ること。思考に抗うのをやめ、それが自然と湧き起こったり消えたりするのに任せること。
(よくわかるACT ラス・ハリス)
拡張の4つのステップ
①観察する:深呼吸しながら身体に意識を向けて、不快な感覚を見つける。
②息を吹き込む:深呼吸して、その感情に息を吹き込むようにイメージする。
③居場所を作る:息を吹き込みながら、感情が体内に存在できるようにイメージする。
④容認する:不快な感情を変えたり、追い払ったりしない。
重要なのは、容認すること。ネガティブな感情をあるがままに受け入れること。
これまで自分は、他人の感情や行動はコントロール出来ない。自分がコントロール出来ることは「出来事をどのように捉えるか」という1点のみにある。と思っていた。しかし本書を読んで、「出来事の捉え方を変えることすらも出来ない、不快の感情をコントロールしてはいけない」ということを理解した。
つまり、自分に出来ることは「感情に没入せず自己を観察し、受け入れること」しかない。