聴覚障害のある一家に生まれた女性の話。めでたくオールタイムベスト入り。今ならアマゾンプライムで観れるので、是非とも。
家族の中で唯一の健聴者である主人公の少女は、事あるごとに家族の通訳となり、農家の仕事や家族間のいざこざを仲介する役目にあった。彼女には歌を唄う才能があったが、両親は歌手になることを反対した。耳の聞こえない両親には、娘が歌手を目指すことで自分たち家族から離れていくような気がしてならなかった。それに、自分達には娘の歌声を聞くことができなかった。
この映画の印象的なシーンが2つある。
1つ目は学校での歌の発表会の際に、わざと沈黙を聞かせて、一人称視点を聴覚障害の家族に向けたところ。娘の歌声を聞いたオーディエンスの反応をみて、両親は娘の歌の才能を初めて知った。
2つ目は、最後のオーディションのシーンで、歌いながら家族に向けて手話を始めた部分。あれは何回見ても、確実に号泣しちゃうよ。
夫婦役の2人が本当に最高だった。無骨で愛嬌のある父親役を演じたフランソア・ダミアン、純粋無垢で神経質な母親役を演じたカリン・ヴィアール。2人の声にならない拍手が主人公のエールとなって、最後の家族で抱き合うシーンまで全てのシーンに愛が凝縮されていた。
資本主義の中に潜む優生思想は「愛」を排除する。分かり合えないことを諦め、理解できない異物を排除し、合理的なものだけを追求すると、人間の心は退廃し、愛から拒絶される。
この映画で伝えたいのは、声が聞こえないことじゃない。「声が聞こえない」というのは単なる比喩であり、相手に伝わらない対話のもどかしさ全てを表現している。
理解できないことに少しだけ寄り添う。価値観を押し付けない。人を想う気持ちを大切にする。障害に負けず、楽しく前向きに生きる。相手へのエールを、言葉ではなくても、両手を上げて揺らすことで伝えることもできる。
そういうメッセージをこの映画からもらった気がする。