【読書】「ない仕事」の作り方

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「ない仕事」の作り方

ちらっと読んだ筆者の「アウトドア般若心経」が大変に面白かったので、本書も図書館で借りてみた。で、あ〜〜もう最高。超絶に大好きな思想が詰まった本で、たぶんオールタイムベストです。アイデンティティに悩んでいる現代人に読んで欲しい、人生のバイブル。

「ない仕事」とは

筆者のみうらじゅんを一言で語ることは難しいけど、「マイブーム」という言葉の生みの親。「ゆるキャラ」を作ったのも、この人。あと「こじらせる」っていう言葉を流行らせた人。

ロン毛でサングラスかけてて、一般人には理解出来ない趣味だらけの人、タモリ倶楽部にたまに出てる人。そのタモリ倶楽部で「カニパンブーム」や、「いやげものブーム」の回はちらっと見てたんだけど、テレビを観てる時はサブカル風の変わったおじさんっていう印象しかなかった。

みうらじゅんは、「なぜ一般人には理解し難い趣味を持っているのか」、「それをどうやって仕事にしているのか」、謎だらけ。武蔵美を卒業した後、1社も内定が出ない中でイラストレーターの仕事をしながら細々と活動していたようだが、筆者なりに社会を生き抜く戦略が実は存在した。

要するに「ない仕事」とは、依頼もないのに勝手にやった仕事のことなのです。

本書に示してあった、筆者「ない仕事」を作る手順を紹介。

そもそも違う目的で作られたものやことを、別の角度から見たり、無関係のものと組み合わせたりして、そこに何か新しいものがあるように見せるという手法らしい。

アイデアをポップにする魔法

  • ①差別化:名称もジャンルもないけど「なぜかグッとくるもの」を見つけて、ポップな名前をつける。
  • ②一点集中:圧倒的な量を収集することで、本当に好きになるまで自己洗脳する。
  • ③接近戦:1人電通になって、媒体やインフルエンサーに売り込む。

みうらじゅんが提唱する方法は、実はランチェスター戦略に基づいています。①「差別化」を基本原則とし、②一点集中で沢山の量を集め、③接近戦で売り込む。多分、本人は意図していないと思うけど、ランチェスター戦略で言うところの、弱者の戦略をベースにしています。

そして、①差別化について、みうらじゅんの柔軟な発想根源はマイナス要素の「うがった見方」から始まります。筆者は、当時は誰も近づかなかった、かなり無理があるフォルムの地元のキャラクターに「哀愁」を感じ、『ゆるキャラ』と命名するところからブームを作った。

普通は皆さん、「いいこと」「面白いこと」の中から、次のアイデアを考えます。しかし、実はこういったマイナス要素の中に、チャンスは埋もれているのです。

世間ではマイナスとされているものを「ポップ」に見せることを意図してやっている。これは、「深刻さ」を「なし」にしてしまうと言い換えることができる。前途の「自分を洗脳する」ことに繋がる。面倒なことやネガティブなことも、楽しんでしまおうと自分に思い込ませるための手段です。

P49,P69~70

名前をつけることでポップにする。例えば、暴走族をオナラプープー族にすれば、それはもう怖くない。アイデアをポップにするのは言葉の魔法なのだ。

言葉の力だけで解決できることは、実は以外と多いのではないかと私は思っています。朝日新聞にコラムを掲載していたとき「暴走族」がなくならないのは、その呼び名がかっこいいからではないか。だから「オナラプープー族」と名前をかえるべきだと書きました。…私がやってきたことは、だいたいこの逆のことです。恥ずかしいこと、口にしたくないこと、世の中で陽が当たっていないものごとに、名前をつけたり言葉を言い換えたりして、ポップにして表に出す。

仏教思想をベースにしたみうらじゅんの思想体系である本書には、認知バイアスの書き換えにおける具体的実践方法が描かれているように思う。最近、「脳科学は人格を変えられるか?」等の脳科学関連の本を読みしたが、マインドフルネスのことしか大体書いてなくて、実践方法を模索していたところでもあった。

あらゆる「ない仕事」に共通することですが、なかったものに名前をつけた後は、「自分を洗脳」して「無駄な努力」をしなければなりません。…興味の対象となるものを、大量に集め始めます。好きだから買うのではなく、買って圧倒的な量が集まってきたから好きになるという戦略です。…いったい、こんな知識が何の役に立つのだろうかと、そんなことを冷静に考える暇さえ自分に与えてはいけません。

P18~20

第一印象が悪いものは、「嫌だ」「違和感がある」と思い、普通の人はそこで拒絶します。しかしそれほどのものを、どうやったら好きになれるだろうかと、自分を「洗脳」していくほうが、好きなものを普通に好きだと言うよりも、よっぽど面白いことになるからです。P44

筆者が山形の湯殿山に出かけた際に、誤って途中下車してしまう一説。バスの時刻表を見ると、1日に数本しか走っていないために次のバスが来るまでずっと待ち続けた。憤りを感じたが、その時刻表を「地獄表」と命名したことで、名前をつけて面白がってみると、自分の気持ちすら変わってプラスになった、という。そこから、「地獄表」を写真に撮る趣味を持ち始めた。

誰になんと言われようと、名前をつけてポップなアイデアを起点にする。マイブーム(自分が好きになる過程)を積極的に作る。

そこがいいんじゃない!で肯定

本書を読んで、みうらじゅんという人物の思想がようやく分かった。筆者の思想体系を現した言葉そこがいいんじゃない!に集約されると思う。全ての出来事を肯定的に観る魔法の言葉が「そこがいいんじゃない!」なんだ。

人はよくわからないものに対して、すぐに「つまらない」と反応しがちです。しかしそれでは「普通」じゃないですか。「ない仕事」を世に送り出すには、「普通」では成立しません。「つまらないかもな」と思ったら「つま…」くらいのタイミングで、「そこがいいんじゃない!」と全肯定し、「普通」な自分を否定していく。そうすることで、より面白く感じられ、自信が湧いてくるのです。

P26


赤塚不二夫の「それでいいのだ!」より、みうらじゅんの「そこがいいんじゃない!」にしっくり来ている。(逆に)そこがいいんじゃない!という言葉の方が、思考を煩悩に囚われてネガティブな発想を生み出しやすい自分の体質に合っている。

自分が認識している世界は、勝手に自分が作り上げている世界で、般若心経の教えによれば「本当は何も無い」のである。よく分からないものを「つまらない」と思うのも自分の認知。空(ない)の思想が根底にあるから、出来事に感謝する。

これも、私が若い頃に間違っていたから気づいたことです。
私の「したい仕事」は世の中にあると思い込んでいました。しかし、どうやら、ない。だったら、自分で作るしかない。しかしそこで自己主張してしまうと、世の中からすぐに「必要がない」「欲しくない」と気づかれてしまう。そこで自分を消し、あたかも「なかったもの」が流行っているかのように、主語を変えてプレゼンしてみる。すると、人々は「流行っているのかな?」と、ようやく目を向けてくれるようになる。

「自分探し」をしても、何にもならないのです。そんなことをしているひまがあるなら、徐々にボンノウを消していき、「自分なくし」をするほうが大切です。自分をなくして初めて、何かが見つかるのです。

P132,133

とかって考えると、凄く楽になる。自己洗脳していこ。