【映画】この世界の片隅に

  • ブックマーク
  • Feedly

あらすじ

戦時中の広島県呉市を舞台に、ある一家に嫁いだ少女が戦禍の激しくなる中で懸命に生きていこうとする姿を追い掛ける。

感想

2016年公開。

冒頭から画面一杯に埋め尽くされる、丁寧で繊細なディティール。

やっぱり、ジャパニメーションは凄い。少女漫画・ギャグ漫画の系譜もあって、脱力感があるが故に、時間軸が進むたびに、段々と悲しさが募ってくる。誰か死ぬのは分かっていても、こんな素敵な家族の誰も死んで欲しくない。

映画館で見たら、コトリンゴの歌声にやられてたかも。こんなにいい声してたっけ、この人。

主人公の声が「のん」だったけど、やばかった。ビビるくらい刺さった。自分も”あまロス”になった1人だったけど、久し振りにこの人の声を聴いて、「あぁ…この無邪気な声にみんな癒されていたんだなぁ」と実感した。混じりっ気がなく、真っ直ぐで、弱く、光に満ち溢れた音。主人公のすずの性格と同じ、どんな困難にも、ゆっくりとマイペースで立ち向かう。そういう姿勢が音から伝わってくるのは、「のん」でしか成し得なかったと思った。

「ありゃ〜困ったねぇ〜」と言いながら着物を仕立てるところとか、イワシ3匹で献立を考えるところとか、萌え要素がありすぎて。こんな奥さんと結婚したいという願望しかない。ただ、ご飯の描写は、ジブリ直伝の若女将は小学生の方が巧いな。

全てが優しさに溢れている。これは、わざと”悪”を排除している演出とも思う。絶対に失敗を責めない家族、みんなで憲兵に言われたことをバカにして笑う。砂糖を水に流しても、へそくりで買う。現代に生きる我々のモラルに問いかけている演出。

こんな時、両手があれば、この人の不安な手に、片手を添えられるのに。

油断した最後に、1番悲惨なシーンがあった。原爆の悲惨な表現を避けるかと思っていたが、直接的に描かれていた。構成から何から素晴らしい映画だった。

「ありゃ〜困ったねぇ〜」しか不満を言わない主人公のすずも、度重なる空襲、目の前で大切な人が無くしてしまったこと、右手を失った絶望から、次第に希望を見失っていく。

この世界の片隅に起きた、平凡な生活を一変させた残酷な体験。ドジでおっとりした主人公のような寛容な女性が、何故片手を失い、義兄弟の娘を無くし、その責任を抱えながら生きていかなければならないのか。

フィクションとはいえ、これらの類する体験をした人、これ以上に残酷な戦争体験をした人が数多くいて。このことから、僕たちがどう生き抜くかのヒントを学べる気がする。すずの人柄も含めて。

忘れた頃に、もう一度見たい。できれば映画館で観たい。

星評価:★★★★★