【読書】非属の才能

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ネットで全文無料公開(半永久的に)らしいので、↓で読めます。
非属の才能/本がすき。

感想

何者にもなれない「透明な大人たち」

この本って「輪るピングドラム」でイクニが伝えているメッセージと同じでは…。と思ってしまって関連性を見出せずにはいられなくなったので、照らし合わせて考察を始める。

私たちは、こどもブロイラー(学校教育)で箱詰めされる。日本社会を構築する礎となっている「同調性」を植え付けられ、次第に自分のコトバを失い、個性が織りなす光と陰のコントラストを消し去っていく。

そして、監視社会が一層強まる世論のシビアなムードに耐えかねて、「安定思考」をベースとして歩み出す。自己愛・自己肯定感の薄い人ほど、自身の心地よさにフォーカスしないことに慣れてしまっている。社会に対して、他人に対して、そして自分自身に対しても可能性を信じていない。

だから、躊躇なく「他人が敷いたレール」に乗る。大人となり「世論の幸福」をベースとして、お金を得るため職につき、そのうち家族を作る。「他人の敷いたレール」の走り心地はそこまで悪くないため、「なんとなく幸せ」で生涯を過ごす。

一見すると「立派な大人」に見えるが、自己顕示欲と承認欲求を満たすことが行動原理にある「透明な大人」が完成する。「透明な大人」を全否定している訳ではない。他人のレールが非常に心地よく、自分の能力を活かして社会貢献している人もたくさんいる。


問題は、クリエイターの適性があるが故に社会に適合できない「非属で内向的な」こどもたちに、透明な大人が当人の生き方を許容できるかどうかにある。
残念ながら、世論の正しい道を懸命に走ってきた大人たちは、こどもたちにも自らと同じ「他人の敷いたレール」を勧めてしまい、ドリームキラーの首謀者となるだろう。

何ともったいないこと。昔と違って、人生のイニチアシブを掴むことは富裕層家庭のみに与えられた特権ではなくなってきている。この恵まれた時代に、そしてJAPANに生を受けた奇跡に近い境遇を持ってして、なぜリスクばかりを按じてしまうのか。

トタンの家に色を塗ろう

そう、なぜリスクばかりを按じてしまうのか。

「自己肯定感を奪い」、「安定思考を刷り込む」教育環境が、箱の中で生きる透明な大人を量産する。それは、社会基盤を回すために必要な政策である。国策なのでは?と思ったりもする。

そんな中でごく稀に自己肯定感が分厚く、適切なリスクを取りに行ける、自信に満ち溢れた人間もいる。私は才能に慢心している、リアリティのない人間は嫌いだ。だけど、同時に羨ましくもある。そういう人物はどんなに批判されても自分のレールを突き進む。だから、その類は放っておく。

多くの人は「才能の扉」を開けずにいる。それでも「なんとなく幸せ」であれば扉を開けないまま一生を遂げるだろう。だが、社会の違和感に直面し「運命の切り替え」が必要だと気づいてしまった人は、自らの力で「才能の扉」をこじ開けようともがき苦しむ中で、何者にもなれない自分に絶望する瞬間が訪れる。

そのとき、潜在意識の分厚い壁に何度もぶつかり、どこかで自らの手によって世界線を越えなくてはならない。それには多くの(自分と向き合う)時間と、それを許す周囲のサポートが必要だろう。

僕は人間の幸せとは「分かち合うこと」だと思っている。(239/250)

冠馬と晶馬が陽毬にしてあげたように。トタンの家に色を塗ろう。才能に溢れた子供たちに運命の果実を分け与えよう。無償の愛を持って。

20年後のおはなし

話は唐突に変わるものだが、

「Detroit: Become Human」という先日発売されたばかりのゲームがある。
2038年のアメリカデトロイトを舞台とし、人工知能を持った人間そっくりの家庭用アンドロイドが主人公。

アンドロイドは買い物、ゴミ捨て、食事の準備、子供の遊び相手まで家事のほとんどを担っている。その汎用性は高く、ランニングのペースメーカーを務めることもできる。アンドロイド以外にも、宅配ドローンが街中を飛び回り、支払いは全てキャッシュレス化している。20年後かどうかは分からないが、確実にやってくる未来の姿であると感じる。

車椅子で生活している人さえ、アンドロイドの手助けがあれば1人で生活することができる。自由を得ると同時に、より強い孤独感によって生きる時代が訪れる。