あらすじ
高層マンションの谷間にポツンと取り残された今にも壊れそうな平屋に、治と信代の夫婦、息子の祥太、信代の妹の亜紀の4人が転がり込んで暮らしている。彼らの目当ては、この家の持ち主である初枝の年金。足りない生活費は、万引きで稼いでいた。
感想
2018年公開。
何が正義なのか。何が家族愛なのか。出来るなら、映画館で観たかった。是枝監督の作品の中では、ダントツで1番好き。今後、何回か見返したいし、おそらく見る度に想起させられる感覚がアップデートされていく気がする。
台本の構図が素晴らしくてよ。現象の影から、家族の姿を多元的に表現している。金銭的貧困と、心の貧困と、現代社会が抱える大きなテーマが映像に凝縮されている。
社会生活を営むことが出来ない「万引き家族」は、世界の縮図とも読み取れる。まともに仕事ができない夫、派遣先からリストラされる妻、親元を離れ風俗で働く娘、不登校の子供、そして”万引きされた”子供。
私たちもこの万引き家族と一緒なのだ。断片的にではあるが、どんな人も心の隙間を満たす為に、この世界を生きている。這いずり回りながら、なんとかギリギリの処で精神の秩序を保って生きているだけで。やってることは同じなんだ。
嘘で塗り固められた幸せ。嘘を上塗りして今を繋いでいくしか生活を続けていくことができない。不安定な生活の中で、その場限りの幸せを掴んでいくしかない。
10年間構想を練ったと言われる台本も素晴らしいが、役者の演技もまた痺れる。リリーフランキーの甲斐性のない親父も絶妙だし、安藤サクラが魅せた留置所での名演は、間違いなく日本映画史に残るだろう。樹木希林は言うまでもなく、別格。
子役の2人も葛藤を上手く表現している。ラストシーンの「お父さん…」は、100%泣いてしまう。
あとは、火を見ながら『愛とは暴力ではなく、抱きしめること』と語りかける場面。その後の花火をみんなで見上げるシーンも素敵だった。とにかく絵がいい。画角がいい。
こういう映画を見ると、日本映画の可能性感じる。ありがとう、是枝監督。
星評価:★★★★★